あの英国でも、紅茶よりコーヒーが優勢に
あの英国でも紅茶よりコーヒーが飲まれるようになったと伝える、The Guardian の記事を見つけた(参照)。ただ、ことさらのように上品なミルク・ティーの写真が添えられていることから察すると、筆者の Coco Kahn さんはこの現象に少なからずムカついているようなのである。
記事のタイトルは ”Coffee is nudging tea aside in the UK’s affections. What can this civilisational shift mean?” で、"nudge 〜 aside" というのはちょっとビミョーで訳しにくいが、「〜を軽く押して脇をすり抜ける」みたいな感じかなあ。英国に限らず、決して行儀のいいことじゃない。
というわけで、「英国は嗜好品として、コーヒーが紅茶をすり抜けて前に出ている。この文明的な変化は何を意味する?」というお話になっているわけだ。このお行儀のよくない変化は Kahnさんにとって飲み物の問題にとどまらず、文明論的一大事のようなのである。
Kahn さんはマークス・アンド・スペンサー・カフェで母親とお茶しながら、「最近、カップとお皿が使われなくなってるのに気付いてる?」と聞いたという。こんな話になったのは、このカフェで飲み物の提供に使われる容器が変わってしまったからのようだ。
以前は上品な模様の付いた陶器のカップと皿のセットだったのだが、”And now it was a mug. A mug!” (この時は、マグだったのよ、マグ!)と、憤慨したように書かれている。うぅむ、私としてはスターバックス的な大きめのマグはむしろ歓迎なんだがなあ。
飲み物の容器の変化は、当然の如く中身の変化も意味する。とくに若い層が、他の欧州人のように気軽にコーヒーを飲むようになったと、彼女は指摘している。これって、ライフスタイル全般の変化と関連していると言いたいようなのだ。
そういえば 1990年代初めに英国系の団体に勤務していた頃、給湯室にコーヒーマシンが置いてあって飲み放題だったので、コーヒー党の私は 1日に少なくとも 5〜6杯は飲んでいた。ところが英国から出張してくるジョンブルたちは「日本人と米国人はコーヒー飲みすぎ」と、嫌味っぽいことを言うのだった。
こんなことを言うほどに、あの頃の英国人はコーヒーより紅茶を好んでいたように思う。ところが 30年経った今、彼らの嗜好は逆転して、調査によればフツーに紅茶を飲むと答えたのが 59%だったのに対し、コーヒーを飲むという回答は 63%だったというのである。
ただ、30年前でも英国の若い連中の中には「本当は私もコーヒーが好きなんだけどね」とこっそり打ち明けるのがいた。「コーヒーの方が気軽だし飲みやすいし、それに第一おいしいし、当然だよね」とは、大きい声では言えなかったが、今なら言っても良さそうだね。
ここでそもそもの話をすれば、英国に紅茶が入って来たのは 17世紀後半で、既存の「コーヒーハウス」で提供されていたというのが定説だ。つまりコーヒーの方が先だったわけで、しかもその紅茶が庶民にまで広がったのは 18世紀後半の産業革命以後だったと言われている(参照)。
紅茶を飲むなんて 10年に 1度もない私にしてみれば、英国では 100年かけて広まった紅茶からコーヒーに回帰するのに 300年近くかかったということの方がずっと驚きなのだよね。Kahn さんには悪いけど。
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