クマの「駆除」への抗議電話ということ
秋田県美郷町が、人里に現れて作業小屋に閉じこもっていたクマ 3頭を「駆除」(要するに「殺処分」)したことで、県や町に抗議が殺到しているという。AERA も ”「責任者の名前を言え!」 クマ 3頭駆除に秋田県や町に抗議殺到 長時間電話で職員に疲れ” と報じている。
7月に北海道で牛 60頭以上を襲ったヒグマ「OSO18」の駆除の時も、役場には抗議が殺到したらしい。正直に言えば私もこうしたニュースを聞けば、少しは心が痛む。いくら「危険な動物」であったとしても、「命の尊さ」にはかわりがないからだ。
しかしながら、これはとんでもなく難しい問題である。「かわいそう」などの感情論や、一面的な見方の「命の尊さ」という論理での抗議は、反対方向からの感情論や論理(襲われる人間の方がかわいそうとか、クマが人や家畜の命を奪うこともあるなど)とぶつかるだけになってしまう。
視野を広げれば、アフリカのサバンナでは太古の昔から今に至るまでライオンがシマウマを襲って食っている。シマウマは草を食って生き延びるが、ライオンは他の動物を殺してその肉を食わなければ生き延びられないのだから、ライオンに「お前も草を食え!」と言っても始まらない。
「それとこれとは別問題」などと言わないでもらいたい。繰り返すが、「命の尊さ」にはかわりがないのだ。
今回のような問題では「殺してしまわずに、山奥に放せばいいではないか」という人もいるが、一度人里に降りて楽に食料を得ることを知ってしまったクマは、再び降りてくることが多いとも言われる。その度に同じ繰り返しになってはたまらない。
地元の人たちにしてみれば、「駆除」のおかげで少しは安心して暮らせるようになったのである。そのことを思えば、役場の業務が進まなくなるほどやたらな抗議電話をするのは考えものだ。感情的過ぎる電話となれば、なおさらである。
AERA の記事には、次のようなくだりがある。
「責任者の名前を言え!」などと乱暴な言葉で対応を迫る人も。対応した職員の言葉が気に入らなかったようで、「バカにしているのか!」などと怒りはじめ、クマとは無関係な職員の言葉遣いへの苦情に転じて電話を続ける人。電話先で泣き続ける人……。
はっきり言わせてもらえば、「よほど暇な人たち」である。強いて言えば、動物の命を奪ったことにそれほどヒステリッに抗議するなら、自分も牛や豚の肉を食うのをやめなければならない。
またまた繰り返すが、「それとこれとは別問題」とは言わないでもらいたい。家畜である牛や豚を殺して食うのはいいが野生動物であるクマを殺すのはダメというのは、「殺して食うための命と、殺してはならない命」を分けているということで、ずいぶんゴーマンな論理である。
ちなみに私は肉を食うのをやめて数年になるが、今回のようなことに関する抗議電話で役所の仕事の邪魔なんかしないよ。
| 固定リンク
「ニュース」カテゴリの記事
- バスの運転手が SA でカレー食べて何が悪い?(2025.06.12)
- 職場での熱中症対策が事業者に義務づけられた(2025.06.02)
- 「学校に来させないで」というなら堂々とサボれるのに(2025.05.28)
- 高校生の「飲酒」は「女風呂の覗き」以上の罪なのか(2025.05.27)
- 押収大麻 20トンの屋外焼却で、ちょっとしたことに(2025.05.14)
「自然・環境」カテゴリの記事
- 暑い! 東京や大阪だけでなく、上越も暑い!(2025.06.19)
- 明日は天気図から梅雨前線が消滅しちゃうらしい(2025.06.17)
- この夏も暑くなるという 3ヶ月予報にうんざり(2025.04.25)
- 東京湾北部地下の「海山」なるものが地震の巣窟?(2025.04.18)
- 岡山の山火事の原因は、伐採した木の焼却だった(2025.03.30)
コメント
https://nycdiary.exblog.jp/759094/
そういえば昔こんな映画がありましたね。
一度参考に見ておこうと思いつつ、なかなかその気になれなくて見そびれてしまいました。
投稿: 柘榴 | 2023年10月 7日 20:25
箱根町では年間百頭以上のイノシシやシカが駆除されてますね。自治体によっては五千頭を超えるところもあるようです。
今回はメディアによって広まって(広められて)しまったのが騒ぎのきっかけだと思います。もうこの手の発表はしないことが肝要ですね。
それにしても電話で抗議して怒りをあらわにするなんて暇人がいるもんです。多分日頃相手にしてくれる人がいないのでしょう。
役所の人も迂闊なことをいうと揚げ足とられるし大変です。
投稿: ハマッコー | 2023年10月 7日 21:09
柘榴 さん:
ご紹介の映画、知りませんでした。
>地元の人たちや専門家は、彼こそ、何千年も続いた人間と動物との境界線を犯し、全ての人間とそして熊を危険にさらしたと言う。
難しい問題を含んでいるとは思いますが、この指摘が妥当でしょう。通常ならば両者とも好んで近付き合おうとはしないものですからね。
今回の秋田県のケースは、Grizzly Man のクマと人間が置き換わって、クマの方がやられてしまったと見ることも可能だと思います。
投稿: tak | 2023年10月 8日 06:32
ハマッコー さん:
>箱根町では年間百頭以上のイノシシやシカが駆除されてますね。自治体によっては五千頭を超えるところもあるようです。
この場合は、イノシシやシカが明確に「害獣」と位置付けられているから問題にされないのでしょうね。その「害獣」という指定そのものも「人間の都合」ではあるのですが。
さらに、先日の「OSO18」の場合は多くの家畜を殺して「害獣」とされていたにも関わらず、それでも抗議が殺到しました。
これはもう、マスコミに取り上げられて「目立った」ということだけの違いと言うほかないですね。
「暇人」を刺激してしまったのでしょう。
投稿: tak | 2023年10月 8日 06:38
こういう人には吉村昭の「羆嵐」を読んで欲しいよね。
投稿: basara10 | 2023年10月10日 18:22
basara10 さん:
ヒグマというのがこの小説に出てくるようなのばかりだったら大変ですが、これ、事実をもとににしたドキュメンタリーですからね。
こういうこともあったのだということを、知っておく方がよさそうです。
投稿: tak | 2023年10月10日 19:57