厚労省「飲酒ガイドライン」におけるジェンダー観
厚生労働省が酒に含まれるアルコールの量によって健康へのリスクが高まることを示した「飲酒ガイドライン」を初めて作成したと各メディアが伝えており、ネット上では「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)」というのが見つかる。下の動画は、昨日の ANN ニュースだ。
この「飲酒ガイドライン」において、生活習慣病のリスクを高める飲酒量は「一日あたりの純アルコール摂取量が男性 40グラム以上、女性 20グラム以上」とされている。この数字自体は目新しいものではなく、2013年発表の「健康日本21(第二次)」の中にも見えるから、10年以上も言ってるわけだ。
私は今月 12日の飲酒に関する記事で「1週間に 14単位以上のアルコールを摂取する人のほとんどは脂肪肝」という海外情報を紹介している。「1単位」はアルコール量 20グラムのことだから、「1週間に 14単位」は 280グラムで「1日当たり 40グラム」と一致する。
要するにガイドラインで示されたアルコール量は、海外情報に基づいた数字のようなのである。ただ、日本人は体質的に酒に弱い傾向がある(参照)というよく知られた点については、ここでは意識的にか無意識的にか無視されていて、欧米人の基準そのままの適用だ。
これと対照的に、厚労省はアルコール摂取量の男女差(上述の「男性 40グラム、女性 20グラム」という数字)という点についてはことさら熱心という印象なのである。女性の摂取量目安が男性の場合の半分とする公式文書は、私がざっと探してみたところでは、少なくとも英語圏では見当たらないのだが。
冒頭で紹介した「ガイドライン(案)」では、この男女の大きな差の根拠を示すために「参考文献」として海外論文を 9つも示しているが、一見する限り 2:1 という数字の十分な理由になるようには思われない。ちなみに他分野の参考文献は、「高齢者」7、「若者」4、「体質」4、「その他」5 である。
このガイドライン作成の関係者は、男性は欧米人並みに飲んでも OK としながら、女性のアルコール摂取量をことさら低く抑えるために、他分野に比して明らかに多くの海外論文を援用しているとわかる。なにしろ「若者」「体質」に関する文献の 2倍以上だから、読むのも大変だったろうに。
その意味で今回のガイドラインの基本は、「男性は欧米人並みにビール 2本飲んでもいいけど、女性は 1本までに抑えてね」というトーンなわけだ。これって因習的な男女観に妙に日本的な配慮をした結果なのかもしれないなんて思うのは、穿ち過ぎだろうか。
それから ANN ニュースにある「行動面のリスクとして暴力行為を起こしたり金銭や機密書類、USBメモリを紛失したりする危険もあるなどの例が挙げられた」という妙に具体的な文言には、ちょっと笑ってしまった。厚労省のお役人の中にも、泥酔して USB メモリなくしちゃったのがいるに違いない。
最後に念のため付け加えておくが、私は「女性ももっと酒を飲め」と言ってるわけでは決してないので、そのあたりなにぶんよろしく。
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コメント
どうっすかね。
シンプルに、厚労省のこの件の担当者の奥さんが酒乱なだけかもしれません(笑)
投稿: らむね | 2024年2月20日 16:41
らむね さん:
>シンプルに、厚労省のこの件の担当者の奥さんが酒乱なだけかもしれません(笑)
「自分が酒好きで」という文言を加えるのを忘れてはいけません。
「自分が酒好きで、妻が酒乱」という男性たちによって作られたのでしょう (^o^)
投稿: tak | 2024年2月20日 17:13