本来の桃の節句(旧暦)は、来月 11日なのだよね
今日は 3月 3日で世間では「桃の節句」ということになっており、ひな祭りが行われる。しかし私の生まれた山形県の庄内の ひな祭りは「月遅れ」の 4月 3日ということになっている。下の写真は 17年前の 3月末に帰郷した際、近所の蕎麦屋に飾ってあった庄内の雛人形を詠んだ『和歌ログ』のものだ(参照)。
ちなみに日本の多くの地方では、三人官女の真ん中が座り、両端が立っているというパターンが多いが、庄内では真ん中が立っている場合が多い。「月遅れの三人官女真中には立ち雛のゐて懐かしきなり」という歌になっているのは、そうした文化的背景がある。
ところで庄内ではひな祭りをどうして月遅れで祝うのかというと、もちろん雪国で春の来るのが遅いからということもあるが、それはむしろ二次的な理由で、本来的には「桃の節句」自体が旧暦のものだからである。ずっと昔から祝われてきた行事なのだから、当然の話だ。
そもそも「桃の節句」と言っても、3月初めには桃の花なんて咲いていない。桃の開花時期は、3月下旬から 4月上旬と言われているのだから、新暦 3月 3日では早すぎるのだ。
今年の旧暦 弥生 3月 3日は、新暦でいうと 4月 11日にあたる(参照)ので、桃の花の満開の時期である。本来ならこれでちょうどいいのだが、旧暦は計算が面倒なので便宜的に「月遅れ」が慣習になっている。
桃の節句だけでなく、日本古来の「五節句」というのは新暦ではいくらなんでも早過ぎる。
- 1月 7日 ・・・ 人日の節句(七草の節句)
- 3月 3日 ・・・ 上巳の節句(桃の節句)
- 5月 5日 ・・・ 端午の節句(菖蒲の節句)
- 7月 7日 ・・・ 七夕の節句(星まつり)
- 9月 9日 ・・・ 重陽の節句(菊の節句)
考えてもみるがいい。大寒の 10日以上前の真冬に「春の七草」なんて、白々しいにもほどがある。さらに梅雨も明けないうちの新暦の七夕は、織姫と彦星に気の毒すぎるではないか。東北ではかの有名な仙台の七夕祭りにしても月遅れでやるから、かなりしっくりくる。
同様のことは正月でも言えて、私は個人的に、現代の年賀状の挨拶に「新春のお慶びを申し上げます」なんて書くのはいかがなものかと思っている。「大寒」(今年でいえば 1月 20日)より半月以上前なのに「新春」なんて言うのはよく考えれば、いやそれほど考えなくても白々しくも寒々しい。
年賀状に「新春」なんて言葉を使うのは、「旧正月」(旧暦 1月 1日)でやっていた頃の名残りだろう。今年の場合で言えば旧正月は 2月 10日にあたり、これなら立春を過ぎてるから立派に「新春」なのだ。
新暦の 1月 1日に届く現代の年賀の挨拶では「新春」という言葉は避けたいところだ。どうしても「新春のお喜び」と言いたいなら、旧暦の元日に届くように出せばいい。日本以外のアジア圏では正月と言えば旧正月の方が盛んでもあることだし。
というわけで、年賀状はもう仕方がないにしても、五節句は少なくとも月遅れで祝うことにしたいと私は常に思っているのだよね。東北の素朴で趣き深いひな祭りを見たいなら、今日ではなく今月末以後に訪れればいいのである。
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