チャック・ベリーの曲のイントロと手拍子を巡る冒険
TBS ラジオに金曜の 8:30 から 14:00 という 5時間半にもわたる長時間だが『金曜ボイスログ』という音楽+ウンチクの番組があり、かなりオススメである。臼井ミトンというミュージシャンがパーソナリティを務め、さらに私がご贔屓の音楽ジャーナリスト高橋芳朗氏が脇を固めている。
この番組、昨日は「イントロ・クイズ」なんていう一見ベタに聞こえそうな特集をしていた。実際は古今東西の曲のイントロについて「さすが!」というほどのウンチクが語られていたのだが、高橋芳朗氏による「チャック・ベリーの曲のイントロ、どれも同じに聞こえる」という話には笑ってしまった。
確かに思い出す限り、全部「ソラシドドドド・・・・ソソララソソララ」(こう書いちゃうと興醒めだけど)で同じみたいな印象がある。決してすべてが同じというわけではないのだが、代表的な 3曲を挙げるだけでもこんな具合だ。(初めの数秒聞くだけで納得する)
Johnny B. Goode (1958年録画)
Back in the USA(1959年録画)
Roll Over Beethoven(1965年録画)
改めて「どれがどの曲のイントロ?」と言われても区別が付かない。まあ、この 3曲はイントロだけでなく曲そのものも 12小節のブルース形式がベースなので、ほとんど似たようなものなのだが。
ただ私は "Jonny B.Goode" のイントロだけはピンポンで正解できた。これだけはちょっとキーが低目で耳に残ってるのだよね。(動画だと B♭に近いキーで聞こえるが、ギターを弾く指の動きは A っぽい)
で、今回 YouTube で彼の動画を探してみてわかったことなのだが、彼の時代というのはちゃんとしたテレビ・ショー(下の 2本)に出る時は、スーツにネクタイ(真ん中はループタイだが)がお約束だったみたいなのだね。ロックンローラーと言えどもそのドレス・コードは破れなかったようだ。
それにヘアスタイルも七・三分けとかリーゼントだから、パーマかポマードで固めてたんだろう。まあ、当時の流行と言えばそれまでだが、いずれにしても 3本の動画のすべてで、ノリノリの "duckwalk" (ダックウォーク)が見られるのは嬉しい。
さらに強調すべきなのは、当時のテレビ・ショーに映し出される観客って、今となっては考えられないことだが「100% 白人」ってことだ。観客に限らず、チャック・ベリー本人以外は全員白人である。一番上のダンス・パーティ風のシチュエーションでもそうで、しかも男は全員ネクタイ着用だ。
笑っちゃうのは、1958年録画の "Back in the USA"(上から 2番目)では、客席にいらっしゃるお上品そうな紳士淑女たちのハンド・クラッピング(手拍子)が、しっかり「頭打ち」(1拍目と 3拍目)なのである。ロックンロールのビートがまったく身体化されてなかったんだね。
米国といえど 1950年代はこの程度だったわけだが、それから 7年後の 1965年録画 "Roll Over Beethoven" (一番下)になると、さすがビートルズ以後だけに、客席の手拍子がアフタービートに変わりつつある。とはいえ頭打ちもずいぶん残っていて、全体としては無残なほどバラバラだ。
ちなみに日本では、21世紀となった今でも年齢層に関わりなくこんな感じになることが多い。ド演歌の手拍子みたいに手をすり合わせることまではさすがにないものの、このジャンルでのリズム感は米国から半世紀以上遅れてる。
上の動画だと、ブルーノ・マーズが日本の観客(ほとんど若手ばっかりだと思うのだが)の「1、3拍」の手拍子にシラけて踊りづらくなってしまい、ステージ上から「2、4拍」を指導するなんてことになっちゃってる。2022年でこれだ。
これに比べれば、続いて映し出される半世紀以上前のエノケン時代の方がずっとマシだ。ただ途中でオッサンたちが混じってしまうと、一瞬でなし崩し的に盆踊り風になってしまうのが泣くほど哀しいが。
以上、今日はちょっとしたマニアック・ネタということで失礼。
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