北朝鮮の「汚物風船」と「エンガチョ」のまじない
多くのメディアが、北朝鮮が韓国に向けて「紙くずや糞尿をぶら下げた風船」を飛ばしたと報じている。下の動画は TBS の "風船にごみや汚物 韓国・ソウルに飛来 北朝鮮が散布か 韓国軍「国民の安全を深刻に脅かす行為" というニュース動画だが、思わず「エ〜ンガチョ!」と口走りそうだよね。
これについて北朝鮮は、飛ばした汚物は韓国側が金正恩体制を批判するビラ風船を北朝鮮側へ飛ばしていることへの対抗で、「誠意の贈り物」なのだとマジで主張している。かくも低次元な所業で国家としての品位を自ら落としまくってみせるというのは、この国以外に知らない。
ちなみに汚いモノに触れた場合、例えば道で犬の糞なんかを踏んづけちゃったりした時なんかは、昔から「エンガチョ」と唱えれば穢れが落ちるという口伝がある。まことにもって手軽で便利なまじないである。
「エンガチョ」は口で唱えるだけでなく、お約束の仕草を伴うことが多い。例えば人差し指と中指を交差させるというのがある。こんなのだ。
もっとダイナミックなバージョンは、最近では「エンガチョップ」とも言われているらしく、あの『千と千尋の神隠し』にも出てくる。
というわけで私自身、幼い頃から「エンガチョ」には慣れ親しんできたわけだが、この言葉の意味とか語源とかいうことまでは考えたことがなかった。今さらのように調べてみると、Wikipedia の「エンガチョ」の項に次のような説明がある(参照)。
網野善彦によると、エンは穢や縁を表し、チョは擬音語のチョンが省略されたもので、意味としては「縁(穢)を(チョン)切る」を表すとしている。他に「因果の性(いんがのしょう)」の転訛とする説、「縁が千代切った」の略とする説などがある。
ふうむ、思いがけなく生じてしまった汚れとの縁をちょん切るということのようなのだね。人差し指と中指を交差させる仕草については、Wikipedia に次のような記述もある。
日本の民俗風習に於ける「穢れを防ぐ行為」は古来よりあるとされ、13世紀ごろの『平治物語絵詞』には信西の生首を見ている人々が人差し指と中指を交差させている図が確認できる。
信西(「しんぜい」と読んでね)は保元の乱を画策し、平治の乱後に晒し首に処せられた人物である。その晒し首を見た人々は穢れを避けようと人差し指と中指を交差させていたというのだから、ずいぶん古くからある仕草なのだね。この時「エンガチョ」と言っていたかどうかまでは不明だが。
これっておそらく、通常とは別の指の並びという「ちょっとした非日常性」を導入することにより、日常的な身体感覚に紛れ込んだ「不浄のイメージ」を払拭するというような意味合いがあるのだろう。
最初に触れたニュースに戻るが、あの国って弾道ミサイルを発射する一方で、「ウンコ飛ばしちゃおう!」なんてアイデアが実際に採用されちゃったりするのだね。国家施策のコンセプトの幅は狭いが、落差はやたら大きい国である。
これの準備作業に当たらされた人が気の毒だ。
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