"Prostitute" と「花魁」の共通性
昨日の記事を書いていてふと思い出したのだが、私が "prostitute" という英単語を初めて知ったのは、50年ほど前のこと、"The Catcher in the Rye" (ライ麦畑)をペーパーバックで読んだ時(参照)のことだ。この言葉、いきなり本文の 2ページ目に登場して、その後も何度か出てくる。
初めは意味がわからず辞書を引いてしまった。"stitute" という語根の単語は institute(協会、研究所)や constitute(構成する)などが思い浮かび、いかにも「試験に出る英単語」の最初の方に登場しそうな「お堅い」イメージなのだが、こればかりは見たこともなかったのでね。
というわけで、辞書でいきなり「売春婦」なんて訳語が出てきた時は「へぇ!」と驚いてしまった記憶がある。道理で「でる単」に収録されされるはずがない。
そのペーパーバックは今ではページがすっかり飴色に変色し、iMac の白いキーボードとの対比が目立つ。ちなみにこの小説は自分の兄をいきなり prostitute 呼ばわりだから、米国では禁書扱いされることもあり、NY 公共図書館では一昨年になって初めてフリーアクセスが認められた(参照)。
"Prostitute" という英単語は語源学の専門サイト etymonline によれば、ラテン語の "prostitutus" (「前に置く」または「前面に出す」という意味の動詞 "prostituere" の過去分詞形)がもとで、ここから派生した単語がヨーロッパ全体に広まっているとある(参照)。
さらに etymonline では次のように書かれているのも興味深い。
「金銭と引き換えの性行為」という概念は、語源に本来含まれてはおらず、「欲望にさらされる」(本人または他人によって)、あるいは性が「無差別に提供される」という意味を強く示唆しています。
つまり性の対象として「前面に出され」「公然と晒されている」というイメージがとても強いようなのだ。キリスト教的倫理では性は隠しておくべきものとされてきたが、それを公然と晒すという点で、フォーマルな価値観から離れた「非日常的存在」であることが示されている。
上の浮世絵と写真は昔の吉原の遊郭の様子(写真は後から彩色されたのだろう)で、花魁(おいらん)たちが文字通り公衆の面前に晒されて、"prostitute" の語義そのものである。東西の性に関するコンセプトの共通性が感じられるよね。
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