レナウンが名実ともに消滅するというので
東京商工リサーチが "法人としての「レナウン」が消滅へ" という記事を伝えている。同社は 4年前の 2020年に実質的に倒産してしまっていた(参照)のだが、面倒くさい法的な手続きがようやく終了して、今年中には名実ともに世の中かから「消えてなくなる」ことになったのだそうだ。
私がジャーナリズムや業界団体で繊維・アパレル業界と密接に関わっていたのは、1980〜2000年までのほぼ 20年間だった。アパレル・メーカーの社員として直接業務に関わったことはないが、それだけに客観的な視点で業界をウォッチすることができたと思っている。
レナウンは 1990年代には売り上げ 2000億円を突破して、世界最大のアパレル・メーカーとなっていた。しかし外部から見ると、その「世界最大」というにふさわしい明確なコーポレート・アイデンティは感じられなかったのである。
何しろ販路は百貨店頼りで、主力商品は「アーノルド・パーマー」ブランドに代表される値段だけはいっぱしに高いカジュアルウェアと、一応扱っていた婦人服。ただ婦人服とはいえ、いわゆる「ミッシー・カジュアル」という名の、無難ではあるがぱっとしないものばかりだった。
そしてあまり目立ちはしなかったが、実はおっさんの下着(アンダーシャツとか、ブリーフとか)の売り上げが結構大きかった。元々は大阪で創業した「メリヤス屋さん」だったのだから、それは当然である。
歴史を振り返れば、「メリヤス屋さん」が東京に本社を移し、1960年代の「ワンサカ娘」(シルヴィ・ヴァルタン起用)だの「イエイエ」だのの CM がヒットして高度成長の波に乗ったのが売上拡大の契機となった。そして 1970年代にはアラン・ドロンを CM に起用し、「ダーバン」を立ち上げた。
ここはレナウン追悼の意味で、話題となった CM を列挙しておこう。今の目で見れば 3つともビミョーにダサい(2番目はモロにダサい)が、当時はエラく話題になったのだよ。
広告代理店には相当に高い金を払ったとしか思われず、電通はレナウンに足を向けて寝られない。ただ、CM を通じて世の中に広まったファッション・コンセプトがグループ内にしっかり還元されることは遂になく、会社を訪問しても雰囲気は「アパレル・メーカー」というよりむしろ「二流の商社」だった。
男性社員はビシッとダーバン・スーツを身に付けてはいるが、それは単に「自分のところの品物だから」でしかなく(社割で安く買えるしね)、営業部門と企画部門の意思疎通なんてほとんど感じられなかった。そうした意味では、どこまで行っても「メリヤス屋さん」だったのだと思う。
そんなわけなので高度成長期に数字だけはやたら伸びたものの、遂に「スマートでしっかりしたファッション企業」になることはできず、新時代への対応は致命的に遅れた。それでバブル崩壊とともに足許から崩れてしまったというわけだ。
そのあたりの雰囲気は、WWD の "レナウン破綻1年 23歳元社員の挫折「服が好きなだけじゃ、やってけない」" という記事を読めば如実に伝わってくる。
この記事に登場する入社 1年でレナウンを退社した吉田修太郎さん(仮名)は、学生時代から「洋服好き」だったのに、アパレル業界を目指して就職活動を始めるまでレナウンを知らなかったという。つまり 2020年頃、レナウンのイメージは既に「ファッション業界の埒外」だったのだ。
レナウン関係者には知り合いも少なくないのであまりムチャクチャなことは言いたくない気もしていたが、今回は敢えて率直な書き方をさせてもらった。悪しからず。
【馬鹿馬鹿しい追記】
ダーバン CM でのアラン・ドロンの決めゼリフ、"D'urban c'est l'elegance de la moderne hommes." (と言ってるのかな? フランス語は苦手でヒアリングに自信ない)をもじり、「ダーバン、セガレでやんす、どんなもんでぇ」というのを一部で流行らせたのは、私の学生時代の若気の至りである。
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コメント
土曜日にアーノルドパーマーの店を見て ‟それってまだあったんだ” と思ったところです。一度買ったことがあったような気がします。身の丈に合わない買い物をした気分でした。
レナウンの店だったんですね。
レナウンのCMは青春の思い出そのものですね。それだけ派手に宣伝してたということです。
ダーバンのCMのフランス語のフレーズをそのまま耳コピしてカッコつけて話していたやつもいました。
レナウン終了と聞くとちょっぴり寂しいですね。
投稿: ハマッコー | 2024年7月15日 21:16
ハマッコー さん:
レナウンって結局のところ、イメージと実態のかなり乖離した企業だったと思うんです。
メリヤス屋さんが電通に焚きつけられて、調子に乗りすぎたということなんでしょうね。
投稿: tak | 2024年7月16日 06:09