「まんじりともせず」とはどういう意味か
昨日「肌寒い」の読みなんていう言葉の問題を取り上げてしまった勢いで、今日は「まんじり」について書かせていただく。この言葉、"buncul"(文化庁広報誌「ぶんかる」)2015年5月 1日付にあるように、誤用の多い代表的日本語みたいなのだ(参照)。
平成 25年度の「国語に関する世論調査」の中で「まんじりともせず」の意味を尋ねたところ、「じっと動かないで」という誤解答の割合が 51.5% で,正解の「眠らないで」の 28.7% を 23ポイントも上回ったのだそうだ。
この報告書には「まんじりともせず」の使用例として、以下の 3つの文学作品が挙げられている。
女房は一夜まんじりともせず,烏からすの声を聞いたそうである。(泉鏡花「夜釣」明治44年)
殆(ほとんど)夜中まんじりともせずに,寝返りばかり打っていた。(芥川龍之介「秋」大正9年)
一夜まんじりともしないで踊りつづけ暁あけ方近くには疲れきって舞台に俯伏うつぶしたまま前後不覚に寝入ってしまった。(大倉燁子「鷺娘」昭和21年)
泉鏡花の例で言えば「じっと動かないで」でもあまり違和感がなく、誤った解釈をしてしまいやすい。しかし続く 2例でそんな解釈をしたら、「じっと動かないで寝返りばかり打っていた」とか「じっと動かないで踊り続け」などと、とんでもない矛盾に陥ってしまう。
ただいずれにしても、最近は「まんじりともせず」なんて言葉を使うことはめっきり減ってしまった。私自身、「まんじりともしないで〜」という言い方をこれまでの人生で 2〜3度したぐらいのものだろうと思う。
その意味で、「やぶさかではない」という言葉も似たところがあり、"誤用率高し!「やぶさかではない」の本当の意味は?" という記事があるほどだ。
この言葉、本来は「~する努力を惜しまない」「喜んで~する」「積極的に~する」という意味なのだが、巷では「〜するのも必要ならば仕方がない」というような意味合いで用いられることの方が多くなっているようなのである。
いずれにしても「まんじり」とか「やぶさか」とかいう言葉を単独で用いることが滅多にないこともあり、それぞれの単語の意味合いがまともに伝わっていないというのが致命的な要因なのだろう。
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コメント
近頃あまり使われなくなったため,とりわけ若い世代にとって馴染みがなくなった言葉が結構あるような気がします。
最近テレビのニュースで大相撲の取組結果を報じていた女性アナウンサーが,「○○山,つらくも勝って〇勝となりました」と言ったのを聞きました。
原稿にあった「辛くも」(「からくも」と読みます)を,「つらくも」と読んでしまったのでしょう。
多分これまで「からくも」という言葉に接したことがなかったのかも知れません。
投稿: nomibito-shirazu | 2025年5月25日 22:51
nomibito-shirazu さん:
アナウンサーってのは一応プロですからこのくらいはちゃんと読んでもらいたいところですが、今後はニュース原稿を「からくも」と仮名書きにする方がいいってことでしょうね ^^;)
投稿: tak | 2025年5月26日 06:39